鍼の即効性はなぜ起こる?「気が至れば効く」という古典の考え方

鍼を刺した直後に、患者さんの症状が変化することがあります。

それも、鍼を刺した場所とはまったく離れたところの症状が、です。

私が臨床で鍼をしていると、「今、楽になりました」と患者さんから言われることがあります。以下は2つの例。

絶骨(懸鐘)で瀉法を行った瞬間に肩の痛みが消えた例↓
🔗眉毛の痛み・寝違えの首肩痛が鍼を刺した瞬間に消えた症例

胸が痛いのを然谷を刺した瞬間に治った例↓
🔗右胸の鋭い痛みが然谷の鍼で一瞬で消えた症例

目次

鍼を刺した場所と違う症状が、なぜすぐ変化するのか?

ここで、私には一つの疑問があります。

例えば足の太衝に鍼をしたとき、目の奥の重さが刺鍼直後に楽になることがあります。

足と目は、かなり離れています。
では、鍼を刺した刺激は、いったいどのようにして、これほど速く身体の別の場所に影響するのでしょうか。

石の上に置かれた鍼のクローズアップ
鍼を刺した直後に起こる身体の変化。その速さの謎を古典と現代医学から考えます。

現代医学では神経系によって説明することができます。しかし、鍼灸には昔から、これとは別の説明があります。

それが「気が至る」という考え方です。

鍼灸への不信感から即効性を確信するまでの私の臨床経験でも書きましたが、私は卒業したばかりの時は、鍼の即効性なんて全然信用してなかったです。

ところで、ニハイシャ先生1の鍼灸を習ったあと、臨床で検証・実践して分かったのは古典鍼灸はすごい。

ニハイシャ先生がもっとも強調したのは、「鍼灸は立竿见影」(竿を立てればすぐ影が見える)。これが日本語でいう鍼の即効性です。即効性の意味は、鍼を刺した瞬間もしくは数秒後には患部が楽になる(完治のケースも少なくない)

なぜただの鍼でツボを刺しただけなのに、信じられないほど一瞬で治るのか?

臨床でたくさん検証してきた私すら疑問が生じ、いろいろ調べるようになりました。

古典では「気が至れば効果がある」と考えていた

鍼の即効性について調べていくと、非常に興味深いことが分かります。

古代中国の医学書である『黄帝内経』には、鍼を刺した後の「気が至ること」と治療効果について、はっきりとした記述があります。

「気至而有效」――気が至れば効果がある

『黄帝内経2・霊枢』の「九鍼十二原篇」には、次の言葉があります。

「刺之而気不至、無問其数、刺之而気至、乃去之……気至而有效」

簡単に言えば、

「鍼をしても気が至らなければ、何度刺すかを問題にするのではなく、気が至ることが重要である。気が至れば効果がある」

という意味です。

さらに、その効果を「風が雲を吹き払って、青空が現れるようなもの」と表現しています。

つまり古典では、鍼の治療効果を単純に「鍼を刺した場所を刺激した結果」とだけ考えていたのではありません。

鍼を刺すことで「気」が至り、その結果として身体が変化する。

このような考え方をしていたのです。

「気が速く至れば、効果も速い」

さらに興味深い記述があります。

『鍼経指南・標幽賦』には、

「気速至而速効、気遅至而不治」

とあります。

また、『鍼灸大全・金鍼賦』にも、

「気速効速、気遅効遅」

とあります。

つまり古典では、かなり直接的に、

「気が速く至れば、治療効果も速い」

と考えていたわけです。これは、現代の私たちが「鍼を刺したらすぐ楽になった」という現象を考えるうえで、とても興味深い記述です。

臨床で経験していますが、鍼を刺してすぐ変化を感じる方がいれば、鍼治療後の2~3日で変化を感じる方がいます。

以下の症例:生理前の頭痛・吐き気が鍼治療の翌日に改善した症例(即効性が遅れて出るタイプ)でも書きましたが、鍼しても翌日に効果が現れる方もいる。少数派ですが、このような体質、鍼の即効性が体験できない患者さんは確かにいます。

では、「気」はどのくらいの速さで巡るのか?

「一呼一吸で六寸」という古典の記録

『黄帝内経・霊枢』の「五十営」には、人体を巡る気の速度について、具体的な数字が書かれています。

「一呼、脈再動、気行三寸。一吸、脈亦再動、気行三寸。呼吸定息、気行六寸。」

つまり、一回息を吐いて吸う間に、気が六寸進むとされています。さらに、一日一夜では13,500回の呼吸を基準として、気が身体を50回巡るという理論につながります。

『難経』3にも同様の考え方が記されています。

これは、鍼を刺しているときの特殊な状態というより、人体における通常の気の循環を説明したものです。

そこで私は、さらに疑問を持ちました。

「通常の気の循環速度」と「鍼を刺した瞬間に起こる反応の速度」は、本当に同じなのだろうか?

あぐらでヨガ呼吸をする女性の足と膝上の手のクロースアップ。呼吸1回で気が六寸進むことを示すイメージ
古典では「一呼一吸で気が六寸進む」とされ、呼吸のたびに気が身体を巡ることを示すイメージ

一回息を吐いて吸う間に、気が六寸進む
人が一回息を吸って吐くのは平均で4秒くらいです。

『黄帝内経』は東漢時代の前に生まれた著作。秦・東漢時代の6寸だと12~16cm。4秒に16cm移動するなら、気の流れの速度は1秒で4cmくらいです。

私はこの速度を、鍼を刺していない通常時の気の循環速度として考えています。

日本にも「経絡の速さ」を調べた研究があった

この疑問を調べていると、昭和35年(1960年)に日本で行われた興味深い研究が見つかりました。

中谷義雄氏の経絡研究

中谷義雄氏は、経穴に電極を置き、鍼などの刺激によって生じる電気的変化を測定しました。

そして、経穴ごとに反応が現れる時間の差と、それぞれの距離から、経絡上の反応速度を計算しています。その結果、条件によっては秒速約4mという非常に速い値が算出されています。

顔面の経絡模型のクローズアップ。大迎・地倉などの顔面の主要な経穴が示されている図
顔面の経絡ルートと大迎・地倉などの経穴を示す模型図。顔面の症状や経絡の流れを理解するための補助画像

ただし、これは「気そのもの」を直接測定したものではありません。

正確には、経穴に現れた電気的反応の時間差から、気の伝播速度として計算された値です。

したがって、「現代医学が気の存在と秒速4mの流れを証明した」とまでは言えません。

それでも、60年以上前に日本で、経絡上の反応速度を実際に測定しようとした研究があったことは非常に興味深いと思います。

本山博氏も経絡の速度を研究した

その後、本山博氏も経絡上の電気的反応を測定し、気の流れの速度や方向性について研究しています。

本山氏の研究では、気の流れの速度には個人差や時間による変動があり、通常は数cm~数十cm/秒程度とされています。つまり、経絡の「気の速度」については、まだ一つの数字に決められるような研究結果にはなっていません。

それでも、経絡上の反応が時間差を伴って現れることを測定しようとした研究が存在することは注目できます。

現代医学では、鍼の即時反応をどう考える?

現代医学では、鍼を刺すと皮膚や筋肉の感覚神経が刺激され、その情報が脊髄や脳へ伝わると考えられています。

実際、fMRIを使った研究では、鍼刺激中に脳の感覚処理や痛みの調節に関係する領域の活動変化が観察されています。30名の健常者を対象にした2018年の研究では、鍼刺激中の脳活動を調べ、「即時効果」に関係する脳反応が検討されました。

円グラフ・棒グラフ・折れ線グラフとDATAの木製ブロックが並ぶデータ分析のイメージ画像
fMRI研究では鍼刺激中に脳活動の変化が観察され、即時効果に関係する反応がデータとして示されている

また、2021年には、月経困難症患者を対象に、鍼の「即時鎮痛効果」と脳機能の関係を調べたfMRI研究も報告されています。

つまり現代医学から見ても、鍼を刺した直後から身体の反応が始まること自体は不思議ではありません。

ただし、これらの研究は「経絡の気」を証明したものではありません。

李哲が考える「鍼の即効性」

ここからは、研究結果ではなく、私自身の臨床経験から考えていることです。

患部を刺して痛みが消えたのはまだまだ理解できます。しかし、患部から遠いところを刺したのに一瞬で痛みが治る。これが謎です。

古典でいう「気至」は、現代の鍼灸でいう「得気」と重なる部分があるのではないか、と私は考えています。「得気」現象に関しては以下の記事を参考にしてください。

また、私は鍼を刺した瞬間には、普段の気の循環とは違う、非常に速い反応が起こるのではないかと考えています。なぜなら、足に鍼を刺したとき、その刺激による痛み(痛覚)そのものは一瞬で脳に伝わるからです。

5本の色違いの光線が高速で走るイメージ。鍼刺激による瞬間的な反応を表現した図
鍼を刺した瞬間には、通常の気の循環とは異なる非常に速い反応が起こることを示すイメージ

もし鍼を刺したときも、気が普段と同じ4cm/秒でしか動かないのであれば、私が臨床で経験してきた「刺鍼直後の遠隔部位の変化」を説明するのは難しいからです。

私が特に興味を持っているのは、「普段身体を巡っている気」と「鍼を刺した瞬間に起こる反応」は同じものなのかという問題です。

もし両者が同じ速度なら、私が臨床で経験してきた「刺鍼直後の遠隔部位の変化」を説明するのは簡単ではありません。

逆に、鍼刺激によって通常とは異なる速い反応が生じるのであれば、古典に書かれた「気速至而速効」という言葉とも、ある程度つながってきます。

もちろん、これは現時点では私自身の仮説です。

鍼の即効性は、まだ完全には解明されていない

では、鍼を刺した瞬間、身体の中では何が起こっているのか。

古人はそれを「気が至る」と考えました。
現代医学では神経や脳の反応として研究されています。

しかし、古典の「気」と現代医学の神経が同じものだと証明されたわけではありません。

私自身も、臨床経験から一つの仮説を持っていますが、まだ答えは出ていません。

鍼の即効性が現れた様々な症例まとめ(内部リンク)

🔗首肩の重さ・痛みが数回で改善し、鍼を刺した瞬間に手足が温まった症例

🔗肩関節の痛みが鍼を刺した瞬間に治った症例

🔗右腕の筋肉痛が鍼1本で即改善した症例

🔗腕を上げると肩が痛い女性が鍼を刺した瞬間に改善した症例

🔗呼吸困難・心臓痛・左腕の痛みが鍼を刺した瞬間に改善した緊急症例

🔗ゴルフ肘の痛みが一瞬で消えた鍼治療例(肩の痛みも即改善)

参考文献

  • 『黄帝内経・霊枢』「九鍼十二原篇」「五十営」
  • 『難経』
  • 『鍼灸大成』4
  • 『鍼経指南・標幽賦』
  • 中谷義雄「鍼灸生理学(3)経絡と気血(衛営)」『良導絡』第3号、1960年
  • 本山博『東洋医学 気の流れの測定・診断と治療』宗教心理出版、1984年
  • Jin L, et al. Intersubject synchronisation analysis of brain activity associated with the instant effects of acupuncture: an fMRI study. Acupunct Med. 2018.
  • Wang Y, et al. Immediate Analgesic Effect of Acupuncture in Patients With Primary Dysmenorrhea: A fMRI Study. Front Neurosci. 2021.

※本記事では、古典医学における「気」と、現代医学で測定される神経活動・脳活動・電気的反応を同一のものとして断定していません。また、経絡研究で報告された速度は、気そのものを直接測定した速度ではなく、研究者が電気的反応の時間差などから算出した値です。

  1. 倪海厦(ニハイシャ)先生(1954—2012)はアメリカの著名な中医学先生。漢方・鍼灸・風水・占いに精通した天才倪海厦(ニハイシャ)先生の生涯を紹介しますで詳しく書きましたので、よかったらご覧ください。

    ↩︎
  2. 黄帝内経の解説は、黄帝内経:古代の叡智が教えてくれる、体の「宇宙リズム」をご覧ください。 ↩︎
  3. 難経の解説は、『難経』入門:2000年前の天才医・扁鵲が解き明かした体の謎をご覧ください。 ↩︎
  4. 『鍼灸大成』は明朝の楊継州の著作。本書は、明代末期に完成した鍼灸書の集大成で、後にも先にも、これを上回る本はないといわれている空前絶後の作品です。明代末(1601年)に刊行されて以来、清代に28回、民国時代に14回、現代中国や台湾になってから何回も刊行されており、六〜八年に一度は新版が出されるという大ベストセラー本です。

    ↩︎
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