うつ病・不眠・便秘・反応遅延の女性が麻黄附子細辛湯+大柴胡湯で完治した症例

目次

はじめに:中医学で重度の精神疾患を克服

こんにちは、李哲です。
中国河南省石家荘市の女医、張静中医師1の症例「抑郁」(2024年2月1日発表)を翻訳しました。

この症例は、重度のうつ病、極端な不眠、誰とも話さない、反応の遅さといった複雑な症状に悩む女性が、麻黄附子細辛湯大柴胡湯で完治した感動的な記録です。治療過程、医師の葛藤、中医学の理論を詳細に解説します。うつ病、不眠、便秘、精神疾患でお悩みの方や、中医学の可能性を知りたい方の参考になれば幸いです。

中医学は、身体と心を一体として捉え、症状の根本原因を治療します。この症例では、西洋医学では難しかった重度の精神疾患が、麻黄附子細辛湯と大柴胡湯を中心とした漢方薬と鍼灸で劇的に改善しました。患者の状態、治療の詳細、中医学の視点から見た理論を丁寧に説明し、なぜこのような重篤な症状が改善したのか、その背景を掘り下げます。

患者の症状:複雑で深刻な状態

患者情報

  • 性別・年齢: 女性、1987年生まれ(37歳、2024年時点)
  • 初診日: 2024年4月7日

主な症状

  1. 手足の異常: 手のしびれと腫れ、冷たい水に触れられない。食器洗いや家事が困難で、日常生活に大きな支障。
  2. 精神的な不安定さ: 驚きやすく心臓がドキドキする、極端なイライラで感情が不安定。些細なことで怒りが爆発。
  3. 不眠と無気力: 寝たいのに全く眠れない、話す気力や動く意欲が皆無。家族との会話もほぼなく、孤立状態。
  4. 頭部症状: 頭に風が吹くような感覚、時折強い頭痛で「壁に頭を打ちたい」と感じる衝動。集中力も低下。
  5. 消化器系: 食欲はあるが便秘が続き、排便に大きな困難。腹部膨満感も頻発。

李哲のコメント:
軽度の不眠なら、鍼灸治療で初回から改善する場合が多いです。私の臨床例では、疲れていても眠れない女性が1回の鍼で睡眠を取り戻し、翌朝元気になりました。しかし、この患者さんの症状は非常に重度で、不眠に加え無気力や反応遅延が顕著。複数回の治療が必要でした。詳細はこちら:疲れているのに眠れない女性、鍼で改善。中医学の診断力は、複雑な症状に個別対応できる強みがあります。

中医学による観察:極端な反応の遅さ

張静中医師の診察では、患者の状態を以下のように詳細に観察しました:

  • 目力の欠如: 目がぼんやりし、生命力が感じられない。反応が極端に遅く、一般的な遅さではなく異常なレベル。まるで魂が抜けたような状態。
  • コミュニケーション困難: 質問への返答がほぼなく、隣にいる夫が代わりに答える状況が続く。診察は非常に時間がかかった。

具体的なやり取りを紹介します。「普段は水を飲みたいですか?」と尋ねても無言。5秒の沈黙後、「正常です」と一言。さらに「何が正常ですか?」と聞くと、また5秒の沈黙後、「水を飲むのは正常です」と遅延した返答。

「頭痛の場所はどこですか?指で示してください」と尋ねても無言で、夫が代弁。突然、患者が「頭の中が痛い」と指で示した際も、確認質問には再び無言。

このようなやり取りは非常に時間がかかり、診察室には他の患者が待つ中、張静先生は焦りと感情のコントロールに苦労しました。張静先生は一度外に出て歩き、自身の情緒を安定させる必要がありました。

患者の反応遅延は、単なる精神的な問題ではなく、身体と心の深い不調が絡み合った結果でした。脈診では脈が沈んで細く、舌診では舌苔が厚く、痰の影響や気・血・津液のバランス崩れが確認されました。中医学では、これを「痰が心窍を塞ぐ」状態と捉え、治療方針を立てました。

李哲のコメント:
頭のぼんやり感や反応の遅さは、蓄膿症でも見られます。鼻の奥に痰が溜まると脳に影響し、ぼんやり感が生じます。西洋医学では手術を勧めますが、鍼灸はより効果的で後遺症がありません。私の症例では、鼻のムズムズや頭のぼんやり感が鍼で改善しました。参考:蓄膿症の鍼灸治療例。この患者さんの場合は、痰だけでなく心と体の深い不調が関与し、複雑な診断が必要でした。

治療の経過:一進一退の闘い

1回目の漢方処方:症状の緩和(2024年4月7日~6月2日)

処方: 大柴胡湯+附子+細辛
結果: 不眠、便秘、情緒不安定、排尿などの症状が軽減。食事や睡眠が改善し、情緒も安定。しかし、大きな気分の波(イライラや泣きたい気持ち)は残る。患者は「生きるのが楽しくない」「仕事したいが、子供が小さくて葛藤する」「ダイエットしたい」と訴えました。

張静先生は患者を励まし、「子供はおじいちゃんおばあちゃんが面倒を見るから、安心して仕事に行きなさい。運動にもなるよ」と伝え、家族のサポートを活用して生活改善を促しました。大柴胡湯は便秘や気の停滞を解消し、附子と細辛は体の冷えや虚弱を温める効果を狙いました。この段階で治療は一時的に落ち着きましたが、完治には至りませんでした。

李哲のコメント:
イライラや泣きたくなる症状は更年期障害に似ていますが、このケースは複雑で単純な診断はできません。類似の精神不安定は他の漢方薬で治療可能です。例えば、柴胡加竜骨牡蛎湯や甘麦大棗湯で更年期症状が2週間で改善した例があります。参考:更年期障害の漢方治療例。また、漢方薬はダイエットにも効果的で、脂肪吸引より安全です。参考:36kg減量の症例。患者の葛藤は、精神と生活環境の複合的な影響を示しています。

2回目の悪化:再び不眠と手の腫れ(2024年9月16日)

症状: 毎晩目を開けたまま眠れない、手の腫れ、しゃっくりが頻発。
処方: 黄連阿膠湯真武湯+呉茱萸(10日間)
結果: 10日後に来院せず、一時的に症状が落ち着く。

この処方は、心と体の熱を冷ます黄連阿膠湯、冷えや虚弱を改善する真武湯、消化器系を調整する呉茱萸を組み合わせました。黄連阿膠湯はイライラや不眠を抑え、真武湯は体の冷えや弱った機能を補強。呉茱萸は腹部膨満や消化不良を改善しました。患者の状態は一時的に安定しましたが、根本的な解決には至りませんでした。

李哲のコメント:
黄連阿膠湯と真武湯の併用は珍しいですが、効果的です。私の師匠、ニハイシャ先生2の症例でも同様の処方で不眠や神経症状が改善しました。参考:真武湯と黄連阿膠湯の症例。西洋医学の薬と異なり、副作用が少なく根本治療が可能です。この組み合わせは、心身の複雑な不調に対応する中医学の柔軟性を示します。

揺れ動く状態:一進一退(2024年9月15日~)

9月15日(夫からのWeChat):
「張先生、漢方薬で妻の睡眠が改善し、緊張や恐怖感が減りました。ただし、気分が暗く、話したくない、ぼんやり感が続き、寝すぎる傾向があります。体の問題が心に影響しているのか、心が体に影響しているのか?」

3日後(再びWeChat):
「病状がぶり返しています。2日間眠れず、緊張時に震え、沈黙します。ネットで調べたら、痰が心臓の穴(心窍)に詰まるのが原因だそうです。張先生、原因を教えてください。」

夫の「痰が心窍を塞ぐ」という推測は、中医学の理論に基づくもの。心窍の閉塞は、精神的な閉鎖や反応の遅さを引き起こすと考えられます。痰は中医学で、ぼんやり感や無気力の原因となる重要な病因。この情報を基に、医師は次の治療を検討しました。

李哲のコメント:
「話さない」症状は自閉症に似ています。西洋医学では治療法がありませんが、中医学では可能です。ニハイシャ先生の症例では、1年で子供の言葉やユーモアが回復しました。参考:自閉症の漢方治療例。この患者さんの沈黙は、痰と心身の不調が絡み合った結果で、精密な診断が求められました。

最悪の状態:重度の悪化(2024年11月17日)

症状: 完全な沈黙、動作の極端な遅さ、一点を見つめる目(目力なし、まばたきなし)。まるで「心が死んだ」ような状態。

夫のコメント: 「妻の病状がひどく、仕事や生活に影響。早く治ってほしい。中医学を信じています。」

張静先生の対応: 患者を励まし、「焦らないで、大丈夫。十分な時間を与えるから答えて」と声をかけ、時間をかけて質問。鍼灸(神門、間使、百会、足三里、絶骨、復溜)を施術。患者の集中力を引き出すため、「どこがつらい?」「解決したいのはどこ?」「一番辛いのは?」と多角的に質問し、軽く叩いて視線を誘導。脈診では、脈が沈んで細く速い状態が確認され、少陰病の特徴が顕著でした。

医師は患者の状態に心を痛めながらも、夫の冷静な信頼に支えられ、治療を続行。鍼灸は心を落ち着け、気を巡らせる効果を狙いました。患者の無反応な状態は、診察を一層困難にしましたが、医師は根気強く向き合いました。

李哲のコメント:
目力の欠如やまばたきの停止は重度のうつ病に似ています。西洋医学では中枢神経刺激薬を使うが、副作用が問題です。中医学では麻黄附子細辛湯や大柴胡湯で安全に治療可能。参考:重度うつ病の漢方治療例。この症例では、血圧や肥満も同時に改善しました。鍼灸は心身のバランスを整える補助的な役割を果たします。

最終処方:麻黄附子細辛湯+大柴胡湯の決断

主な症状: 極端な不眠、腹部膨満、便秘、脈が沈んで細く速い。
処方: 麻黄附子細辛湯大柴胡湯麻黄を大量使用

張静先生の葛藤: 麻黄は不眠や心拍数増加のリスクがあり、患者の心臓が元々速いため、処方に大きな迷いがあった。処方箋を何度も見直し、削除と追加を繰り返したが、患者の重症度から「最後の手段」として使用を決断。張静先生は「保守的な治療では間に合わない。最後の一撃を」と決意。麻黄の効果はタイミングに依存するため、夫に「服薬時間を厳守してください。勝手に時間を変えないで」と強調しました。

麻黄附子細辛湯は少陰病を治療し、体の陽気を補強。麻黄は肺に入り、気力を復活させる。大柴胡湯は便秘や気の停滞を解消し、肝脾のバランスを整える。この組み合わせは、患者の心身の深い不調を同時に治療する戦略でした。

李哲のコメント:
麻黄附子細辛湯は少陰病の代表処方で、意欲低下、倦怠感、脈の沈細に有効。腰痛や天気痛など異なる症状にも応用可能です。参考:麻黄附子細辛湯の症例。中医学は患者を家族のように考え、命を救う覚悟で治療します。ニハイシャ先生の症例では、自殺願望の青年を漢方で救いました:自殺願望の青年を救った漢方。麻黄の使用はリスクを伴いますが、適切な診断が成功の鍵です。

完治:劇的な回復

処方後、張静先生は患者の状態を案じ、落ち着かない日々を過ごしました。10日後の再診はなかったが、夫からWeChatで「全て治った」との報告。患者は仕事や生活を取り戻し、家族との会話や活動が正常に戻りました。

張静先生は安堵し、自身も睡眠を取り戻しました。患者の回復は、家族の支えと医師の信念の結晶でした。

夫のメッセージ(詳細スクショはこちら)。

李哲の感想

患者さんだけではなくて、家族まで救える中医学

家族にこのような重度の精神疾患患者がいる場合、家族全体が精神的に疲弊し、治療のために全財産を費やす可能性があります。西洋医学では改善例を聞いたことがなく、薬の副作用で悪化するケースが多いです。

例えば、抗うつ薬や鎮痛剤は一時的な緩和に留まり、依存や悪化を招くことも。しかし、中医学は根本的な治療が可能です。この症例では、麻黄附子細辛湯大柴胡湯が患者の心と体を劇的に回復させました。

麻黄附子細辛湯+大柴胡湯の力

なぜ麻黄附子細辛湯大柴胡湯で治ったのか?
最終処方の鍵は以下の通り:

  • 大柴胡湯: 便秘や腹部膨満を改善し、気の停滞を解消。肝と脾のバランスを整え、情緒の安定をサポート。
  • 麻黄附子細辛湯: 少陰病(意欲低下、倦怠感、脈の沈細)に有効。麻黄は肺の陽気を高め、うつ症状や無気力を改善。

張静中医師によると、麻黄の大量使用が決定的でした。麻黄は肺に入り、陽気を活性化する要薬。肺は中医学で「悲しみ」や「気力」を司る臓器であり、陽気の不足が無気力や沈黙を引き起こすと考えられます。麻黄はこれを補い、心身のエネルギーを復活させました。

また、附子は体の深部の冷えを温め、細辛は気血の流れを促進。こうした生薬の組み合わせが、患者の複雑な症状を統合的に治療しました。詳細な理論は複雑で、専門的な解説が必要ですが、スタンフォード大学の李宗恩中医師3の症例が参考になります:うつ病と自殺願望の漢方治療

中医学の強み

中医学は、症状だけでなく患者全体を診ます。この症例では、身体(便秘、手の腫れ)と心(うつ、無気力)の不調を統合的に治療。麻黄の使用にはリスクが伴いますが、脈診や舌診に基づく精密な診断と服薬管理で成功しました。患者の回復は、医師の信念と家族の支えがあってこそです。

中医学の強みは、個々の患者に合わせた処方と、身体と心を一体として捉える視点です。西洋医学では薬の副作用で悪化するケースが多いですが、麻黄附子細辛湯大柴胡湯は自然治癒力を引き出します。この症例は、中医学の可能性を示す貴重な例です。家族の信頼、夫の冷静なサポート、医師の覚悟が患者を救いました。中医学は、単なる治療を超え、患者の人生を再生する力を持っています。

まとめ

この症例は、重度のうつ病、不眠、便秘、反応遅延が麻黄附子細辛湯大柴胡湯で劇的に改善した事例です。特に、麻黄の大量使用が患者の心身を復活させ、仕事と生活を取り戻しました。鍼灸も補助的な役割を果たし、心身のバランスを整えました。

中医学の診断力と治療の奥深さを示す一例として、精神疾患や不眠でお悩みの方に希望を与える内容です。家族の支えと医師の信念が、回復の大きな要因でした。参考になれば幸いです。

(おわり)

  1. 張静先生は中国・河北省石家庄市の中医師です。『傷寒雑病論』の処方箋で様々な病気を治す若者実力派。本ブログでは彼女の症例を数多く翻訳しました。張静先生の診療所住所・電話番号などは以下の記事をご覧ください。オススメの漢方医・鍼灸医(海外)

    ↩︎
  2. 倪海厦(ニハイシャ)先生(1954—2012)はアメリカの著名な中医学先生。漢方・鍼灸・風水・占いに精通した天才。「傷寒雑病論」をもとに様々な癌・指定難病を治し、LAST HOPE(最後の希望)だと患者さんに言われました。また、臨床治療を行いながら、たくさんの優秀な中医学先生を育成し、中医学伝授のために努めました。倪海厦(ニハイシャ)先生の生涯を紹介しますで詳しく書きましたので、よかったらご覧ください。

    ↩︎
  3. 李宗恩博士はアメリカ・カリフォルニアの著名な中医師。数々の難病・がん治療で高い臨床効果を出して、中医学の普及のために記事を書か続けて、研修医たちも育てている素晴らしい先生です。李宗恩博士の診療所情報は、以下の記事で説明しているので、どうぞご参考にして下さい。オススメの漢方医・鍼灸医(海外)

    ↩︎
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次