葛根湯はなぜ風邪を治せるのか?その仕組みと原理を分析。

こんにちは、李哲です。
風邪の定番漢方「葛根湯」。薬局で簡単に買えて、悪寒・首肩の痛みに飲む人が多いですよね。

でも、「なぜ効くのか?」その仕組みを知っていますか?

中医学では、風邪の原因は「風邪(ふうじゃ)」が体表に侵入すること。葛根湯は7つの生薬が絶妙に協力して、風邪を追い出しながら免疫力を守るんです。

今日は生薬の役割と共同作業を詳しく分析します。読めば葛根湯のすごさが実感できるはず!

陶器の鍋から湯気の立つ漢方薬の煎じ汁を茶碗に注ぐ手元
風邪の初期に飲む葛根湯などの漢方薬を煎じる様子。温かく体を整えるイメージ
目次

風邪の原因は中医学の『風邪(ふうじゃ)』!衛気と首のツボの関係

先に、なぜ風邪を引くのかを簡単に説明します。

西洋医学では風邪はウィルスが原因だと言うけど、中医学は簡単に風邪ふうじゃと定義しています。

中医学の定義では、体の表側、つまり皮膚のところには「衛気えいき」という気が走っています。この衛気えいき」は、ついたてみたいに体の表側を守る役割がある。

衛気えいきが弱くなると、風邪(ふうじゃ)が隙間から入り込んで、人は風邪をひきます。風邪ふうじゃはカゼ以外に蕁麻疹も引き起こしますが、今回はかぜだけにします。蕁麻疹関連情報は以下をご覧ください。

寒い風にあたった時、後ろの首と背中がゾクゾクして悪寒などする経験はないでしょうか?

中医学で言うのは、風は全身の皮膚の穴から入れるけど、もっともよく外から入るルートは首肩と背中の後ろ。首の後ろには、風門・風府・風池などのツボがあります。その意味は風邪(ふうじゃ)が入る場所。だから、風邪を引くと首肩が先に辛くなりやすいのです。

頭の後ろ側に風府(风府)と風池(风池)のツボを中国語で表記した手書き風イラスト
人間の首の後ろから風邪が入りやすいので、「風」文字が入ったツボが多い

風邪を引いたとき、汗をかかないのは風邪(ふうじゃ)(西洋医学でいうウィルス)のせいで、皮膚の穴を締めているからです。

頭・首肩、背中の痛みが生じるのは、皮膚下の筋肉の間に流れる津液(水分)の代謝が悪くて渋滞しているから。つまり、つまっているから痛い。中医学では、これを『痛則不通』だと言います。

そんなの科学的根拠がない!
かぜは風邪ふうじゃから来ていると信じない方は、実験してみれば分かります。

扇風機の風、もしくは冷房の風を首肩の後ろに当ててみてください。しばらく経つと、全身が辛くなり翌日には風邪をひきます。

実験する前に、葛根湯を買っといてくださいね。風邪を引いてフラフラになったら、買いにもいけません(笑)

扇風機の風を腹部に当てる少年のイラスト(風邪を引く実験の例)
扇風機や冷房の風を首肩・お腹に当てると風邪を引く。中医学の「風邪」理論を実感する実験

葛根湯の生薬組成と適応症|傷寒論の古文を現代語訳で解説

先に生薬の組み合わせを説明します。

  1. 葛根四两
  2. 麻黄(去节)三两
  3. 桂枝(去皮)二两
  4. 生姜(切)三两
  5. 甘草(炙)二两
  6. 芍薬二两
  7. なつめ(大棗)十二枚

▼適応症▼

  • 【太陽病,项背强几几,無汗,悪風者,葛根汤主之」
  • 【太陽為之病、脈浮、頭項強痛而悪寒】

以上は傷寒雑病論しょうかんざつびょうろんの原文より引用。

葛根湯かっこんとうの適応症、処方するタイミングは何種類かあるけど、ここでは一番大事な条文だけ載せました。

上記の古文を簡単に翻訳すると、脈が浮いて、頭・首が痛い。悪寒。首肩背中がバキバキで汗をかかない。風を嫌がるときは葛根湯を使う。

葛根湯かっこんとう桂枝湯けいしとう+葛根+麻黄で、違うタイプの風邪を治す処方箋です。

注意点
風邪をひいて汗かく場合、葛根湯かっこんとうは適切な漢方薬ではありません。
必ず汗が出ない症状があるので要注意!

葛根湯の7つの生薬の役割と性質を詳しく解説

葛根は細長い植物で、ほかの木にくっついてて、一番上まで上がります。葛根の性質は、下の水(津液)を高いところまで運べる。

他の木に巻きつきながら上へ登る葛根の植物
葛根(かっこん):他の木にくっついて、一番高いところまで上る植物。津液を運ぶ性質を表す

麻黄は肺を広げる作用があり、肺活量は増やして深呼吸ができます。だから、喘息・肺気腫・肺がんなどの肺疾患には麻黄がないと治せません。麻黄一人では汗が出ないけど、桂枝と手を組んだ場合は、外側の皮膚の穴を開けて汗をかかせることができます。

桂枝の味と香りは「辛甘」。『黄帝内経こうていだいけい』で定義したのは、「辛甘発散為陽」。つまり、桂枝は陽に属する生薬の代表。

芍薬の味と香りは「酸苦」。『黄帝内経こうていだいけい』で定義したのは、「酸苦湧瀉為陰」。つまり、芍薬は陰に属する生薬の代表。

木枠と芍薬の花のクローズアップ
芍薬の花。陰の代表生薬で静脈の血流を助ける

体の血液循環で見ると、陽というのは血液を出す動脈系。陰というのは血液を回収する静脈系。

桂枝は陽の代表なので、心臓の強化ができて、心拍出量を増やします。また、桂枝は香りが強いので発散効果があり、筋肉の隙間を広げて中の古い津液(水分)を汗から出すことができます。

芍薬は陰の代表で、主に静脈の血を心臓に戻す作用がある。桂枝と芍薬がパートナーになると、動脈血と静脈血の流れが早くなります。

生姜、炙甘草、なつめは医食同源の代表。胃腸にとても良いです。

乾燥した大棗(なつめ)と緑の葉が並んだ様子
医食同源の代表的な生薬:大棗(なつめ)。胃腸を補う役割

炙甘草のほかの効能は、

  1. 強心作用があり、一番大事な心臓を守る。
  2. 甘草は胃腸の解毒作用がある。風邪を引いたときに、消化不良で胃腸に溜まっている食べ物の毒素を分解します。(風邪をひくと食欲不振になる人が多い)

葛根湯の生薬がチームで風邪を追い出す仕組みを図解

一つの処方に集まった生薬たちは、どんな共同作業を行うのかを説明します。

①桂枝と芍薬は、動脈血と静脈血の流れを早くする。
②麻黄は皮膚の穴を開けて、桂枝は筋肉の隙間を開ける。
この2つがパートナーになると、筋肉の間と皮膚下に隠れている風邪ふうじゃを外側に追い出せる。

白い容器に盛られた黄緑色の乾燥麻黄
青い生薬の麻黄(まおう)。肺を広げ皮膚の穴を開ける

③葛根は胃腸の良い津液(水分、中には免疫細胞もたくさんある)を、一番高い首肩・頭まで運んで来て、古くなった津液(水分)を代謝して新しいのを補充し、首肩の痛みを治す。

④葛根が津液(水分)を汲み上げると同時に、胃腸の良い津液(水分)がなくならないように、生姜・なつめ・炙甘草で補う。

⑤同時に炙甘草で胃腸に余っている食べ物の毒素を分解し、臓器の負担を減らす。

透明容器に盛られた断面が見える炙甘草の輪切り
甘いけど様々な効能を果たす炙甘草(しゃかんぞう)。心臓強化と解毒作用

⑥同時に風邪ふうじゃが転移できないように、炙甘草で心臓の強化をする。

中医学の理論で風邪がひどくなるのは、ほとんど心臓のせいです。たとえば風邪を引いたときに、大げんかしたり悩んだりして心臓に負担をかけると、風邪はなかなか治らない。もしくはひどくなる。

以下は描いた簡易図です。

葛根湯の各生薬が協力して風邪を追い出す仕組みの簡易図
葛根湯の生薬たちがチームで「風邪(ふうじゃ)」を追い出す共同作業の流れ

共同作業の流れを見れば分かりますが、単なる個人作業ではなくて複雑な共同作業です。処方の仕組みは、至り尽くせと言っても過言ではない。

様々な面を配慮しながら、免疫力も傷つけず風邪のウィルスを外に追い出します。

こんな処方を組み立てた人、すごいと思いませんか?

風邪に効く漢方薬は葛根湯だけじゃない!症状別おすすめ15種類以上

葛根湯かっこんとうは風邪を治す唯一無二の処方ではない。
風邪=葛根湯ではないです。

葛根湯以外にあるのは、桂枝湯(けいしとう)、麻黄湯(まおうとう)、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)、大青竜湯(だいせいりゅうとう)、小柴胡湯(しょうさいこうとう)、越婢湯(えつぴとう)が代表的。

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さらに、以上の処方をもとにして変換するのがあります。
たとえば、桂枝二麻黄一湯、桂枝二越婢一湯、桂枝麻黄各半湯、桂枝去芍薬湯、桂枝去桂加茯苓白朮湯、桂枝加厚朴杏仁湯、桂枝加葛根湯、桂枝加附子(トリカブト)湯、越婢加朮湯、葛根加半夏湯……

皆さんは驚くかも知れません。

「なにこれ???」
「風邪の処方だけで、こんなに多いの?」
「西洋薬は全部タミフルとか、誰でも同じ薬だけど?」

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漢方薬の処方箋が多いのは、風邪ふうじゃの性質が特殊だからです。中医学言葉でいうと、「風善行而多変」。直訳すると、風邪ふうじゃはアチコチ移動する遊走性があり、非常に変化が多い。西洋医学の言葉でいうと、風邪のウィルスは種類が非常に多いです。同じ人物でも、去年と今年の風邪の症状が同じだと限らない。つまり、同じウィルスにかかるとは限らないのです。

一人ひとりの症状に合わせるオーダメイド式。これは、もっとも合理的で科学的な治療法です。西洋医学の万人に同じ薬を出すやり方とは、天と地の差。

ニハイシャ先生1が書いた風邪の処方箋を翻訳したのがあります。ぜひメモしてください。風邪のときには役に立ちます。

まとめ

葛根湯かっこんとうの説明を見て、【殺す】と言う文字は見かけてないでしょう?

中医学は殺すという概念がありません。
体(免疫力)を強化して、風邪(ふうじゃ)を外に追い出すだけです。

西洋医学のウィルスを殺す・抑制するやり方は、必ずもっと強いウィルスを生み出します。今でも風邪のウィルスを殺せる薬がないのに、変異した強いウイルスが現れた時は、西洋医学の先生も手を上げて死ぬのを待つしかないでしょう。

今だって、病院では抗生物質を使いすぎて、超耐性菌が生まれています。病院で感染されたら、あとは死ぬのを待つだけ。対抗できる抗生物質がないから。西洋医学の残念な現状は、スタンフォード大の博士、李宗恩中医師2も以下の記事でよく説明しました。

漢方薬のやり方は、体の免疫力を強化をする。殺し合いではなくて、何種類の生薬の複雑な共同作業でウィルスを追い出すので、ウィルスはどの成分に耐性があればいいか分からない。だから、漢方薬は2千年以上使ってきたけど、超耐性菌が生まれない。いつの時代でも効くのです。

最後に一つお伝えしたいのは、漢方薬はどんな症状にも効果があります。漢方薬を飲んで効果がないときは、漢方薬のせいではなく、処方の間違い。処方した先生の勉強不足です

温病派の先生かも知れません、ほかの経方派の先生に変えて下さい。

関連記事:漢方が効かない理由は「温病派」?経方派との違いを解説

番外編:鍼灸も風邪を治せる

風邪を引いたら葛根湯などの漢方薬を思い出す人はいるけど、「鍼治療に行こう!」と最初に思う人は少ないでしょう。理由は簡単ですが、鍼で風邪を治す鍼灸師が少ないから。

漢方薬以外にも、中医学のもう一つの柱である鍼灸でも風邪は驚くほど早く治せます

当院では風邪、インフルエンザ、コロナ…様々な患者さんを治療して来ました。当院の常連さんは、みんな風邪を引いたら、持病のついでに一緒に治す感じ。以下は一部の症例、参考になると幸いです。

🔗風邪の熱を下げるツボ「大椎穴」|子どもの発熱と咳が鍼1回で改善した症例

🔗20日も治らないコロナの咳、喉の痛みは鍼1回でだいぶ良くなり、小青竜湯と桔梗石膏を併用して完治

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🔗風邪で喉が熱くて痛い女性、外関を刺したらすぐ治った面白い鍼灸症例

🔗胃腸風邪の腹痛・下痢を鍼灸で1回で改善した治療例

  1. 倪海厦(ニハイシャ)先生(1954—2012)はアメリカの著名な中医学先生。漢方・鍼灸・風水・占いに精通した天才倪海厦(ニハイシャ)先生の生涯を紹介しますで詳しく書きましたので、よかったらご覧ください。

    ↩︎
  2. 李宗恩博士はアメリカ・カリフォルニアの著名な中医師。数々の難病・がん治療で高い臨床効果を出して、中医学の普及のために記事を書か続けて、研修医たちも育てている素晴らしい先生です。李宗恩博士の診療所情報は、以下の記事で説明しているので、どうぞご参考にして下さい。オススメの漢方医・鍼灸医(海外)

    ↩︎
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コメント

コメント一覧 (8件)

  • 葛根湯。こんなにわかりやすく生薬を説明いただき、感動です。
    保存版にさせていただきます。<(_ _)>

  • id:hanak50kamoto
    岡本 花子 さん
    コメントありがとうございます。
    分かりやすくなっていて良かったです。ぜひ葛根湯を活用してください。

  • id:kasandeeY
    kasandeeYさん
    ブコメありがとうございます。
    役に立つ情報で嬉しいです。

  • id:sunaowamuteki
    sunaowamutekiさん
    ブコメありがとうございます。
    葛根湯は風邪にとても良いです。合っているときは一発で効くので、ぜひ活用してください。

  • id:torute3
    とるてさん
    ブコメありがとうございます。
    ためになる記事で嬉しいです。

  • id:bumeesha
    bumeeshaさん
    ブコメありがとうございます。
    そうですね。漢方薬では超耐性菌が生まれないので、数千年経った今でも有効です。
    今後はぜひ、いろんな漢方薬を試して見てください。

  • id:momotooranda
    momoさん
    ブコメありがとうございます。
    風邪のひき始め、葛根湯を飲む方は多い感じです。症状があっていれば、とても良いと思います。
    お守りがわりになるとはすごいですね。葛根湯以外に、ほかの漢方薬もぜひ使って見てください。

  • id:mizutamado
    みずたま堂ひなた さん
    ブコメありがとうございます。
    分かりやすい説明になっていて良かったです。
    葛根湯は風邪に効くので、今後風邪を引いたときに症状があっていれば、使って見てください。きっと効果バツグンだと思います。

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