「中医学には解剖学がない」と思うのは間違い
こんにちは。李哲です。
今日は中医学の雑談。
人体解剖学だと、皆さんはすぐ西洋医学を思い出すでしょう。
「西洋医学=人体解剖」のイメージ。
「中医学に解剖学がある???中医学には気・経絡・陰陽など、わけわからん抽象的な名詞だけ。中医学には解剖学がない!」と思うかも知れません。実は、これは中医学に対する誤解です。
何も食べないと何日で死ぬ?中医学の『黄帝内経』の答え
一つの例をあげます。
「人は何も食べないと何日で死ぬのか?」の質問に対して、『黄帝内経』には解剖学に関する面白い答えがありました。以下は古文の引用。
黄帝曰:愿闻人之不食,七日而死,何也?
伯高曰:臣请言其故。
胃大一尺五寸,径五寸,长二尺六寸,横屈受水谷三斗五升,其中之谷,常留二斗,水一斗五升而满,上焦泄气,出其精微,愫悍滑疾,下焦下溉诸肠。
小肠大二寸半,径八分分之少半,长三丈二尺,受谷二斗四升,水六升三合合之大半。
回肠大四寸,径一寸寸之少半,长二丈一尺,受谷一斗,水七升半。
广肠大八寸,径二寸寸之大半,长二尺八寸,受谷九升三合八分合之一。
肠胃之长,凡五丈八尺四寸,受水谷九斗二升一合合之大半,此肠胃所受水谷之数也。
平人则不然,胃满则肠虚,肠满则胃虚,更虚更满,故气得上下,五脏安定,血脉和利,精神乃居,故神者,水谷之精气也。
故肠胃之中,当留谷二斗,水一斗五升。
故平人日再后,后二升半,一日中五升,七日五七三斗五升,而留水谷尽矣。
故平人不食饮七日而死者,水谷精气津液皆尽故也。
引用元『黄帝内経・平人絶谷論第三十二』より
文章には各臓器の長さ、太さ、重量、容積など記載しています。
長さの単位は現代と違いますが、比例関係から見ると、現代の解剖学とほぼ同じ。
もっとも面白いのは、黄帝の質問:「なぜ人は1週間食べないと死ぬのか?」
伯高の答えを直訳すると、健康な人は胃腸に2斗の食べ物と1斗5升の水が貯蓄されている。つまり、常に3斗5升の栄養素があります。
健康な人は1日2回、便が出る。1回の出る量が2升半、1日だと5升が便で出ます。5升✕7=35升=3斗5升。だから、1週間後には胃腸の栄養素がなくなるので、人は死ぬ。
これは一般的な生理学で、異例の時もあります。遭難10日~1ヶ月、食べ物がない状態で生きている人がいます。個人差があるのは体質・精神状態が原因です。
精神状態が体に及ぶ影響は、以下の記事でも討論しました。どうぞご参考に。
古代の中医学にも解剖学がある原因
古代の中医学は、なんで解剖学に詳しいのか?
考えられるのは、古代の処刑が多かったから、こういう具体的な長さ・容積・太さなどのデータが残っている。
ヨーロッパの解剖学の歴史を見ても、似ているのがありますね。当時は死体の解剖が許されてないので、こっそり死体を墓から盗んで研究した人もいると、日本の鍼灸専門学校の授業で聞きました。
現代医学は解剖学からスタートしたけど、残念ながら解剖では経絡の存在が分からない。中医学は経絡の存在を知っていながら、解剖学のデータもあります。
中医学が研究するのは、目に見える解剖学ではなくて、見えない「気」
中医学は昔から解剖学があったのに、なぜ西洋医学みたいに細かく神経・筋肉・血管などをもっと研究してなかったのか?以下は私の推測です。
体の主役は見えない「気」で、見える臓器は「脇役」
病気治療で解剖学は、さほど意味がない。
何故かと言うと、体の働きを牽引している「気」と「経絡」が主役で、目に見える各臓器は脇役だからです。
中医学が研究するのは主役。
西洋医学が研究しているのは脇役です。しかも脇役すら分かってない。だから、虫垂・扁桃腺はなくても大丈夫だという笑い話があります。
本当に体には必要がないゴミでしょうか?
以下の記事では詳しく討論しました。
中医学の有名な言葉がありますが、『気為血之帅、気行則血行』。気は血を引っ張って行く意味です。
大昔から中医学は知っていました。
心臓のポンプの力だけでは、血液がすごいスピードで全身を回らない。必ず前で気が引っ張っているから回れる。そして、気が血管の外側を締めているから、血液がすごいスピードで回っても飛び出さない。
経絡のスピードは、果たして秒速何kmあるだろう?
以下の記事で分析しました。参考になると幸いです。
中医学では解剖学を完全に捨ててはない
注意すべきなのは、中医学は解剖学を否定していません。
心臓の経絡(心経)。膀胱の経絡(膀胱経)…各臓器に対して経絡は、ちゃんとついています。
胃は食べ物を消化して腸は吸収・肺は呼吸を司る・膀胱は尿を貯蔵・胆嚢は胆汁を分泌して消化を助けるなどは、現代医学の理論と同じです。
中医学の臓器の定義は、西洋医学よりも広い
中医学と西洋医学の違いは、中医学でいう五臓六腑は本来の臓器とほかの所まで入れて、定義をしている。つまり、西洋医学でいう臓器よりも範囲が広い。
一つの例をあげると、中医学でいう脾臓は、西洋医学でいう脾臓とすい臓、両方の臓器と関連する内分泌系も入れています。
手術が必要な外科では、神経・筋肉など細かく分類するのは有利だと思います。しかし、内蔵の病気に関しては、外科のやり方は合わない。
外科の手術で内科の病気を治そうとすると、必ずたくさんの死人が出る。これは以前の翻訳文でも触れています。
人間の体は、個人作戦ではなくて、幅広い範囲で臓器と内分泌系・リンパ系・神経系統などが協力して働いています。単なる臓器の働きを見るだけでは、全体を失う。
病気治療では細かく見るのではなく、広範囲でものを見る中医学のほうが有利です。
臨床での結果を見ても分かりますが、内科の病気治療では中医学が王道です。西洋医学よりも副作用がなくて効果が良い。
共同作業で病気を治すのは、漢方薬の特徴でもあります。
以下は、葛根湯の共同作業の仕組みを詳しく分析した記事です。どうぞご参考に。
まとめ
なぜ人間は何も食べない、飲まない状態で7日間生きていられるか?
その仕組みが分かったでしょうか。
これは神さまが人間を作ったとき、念のためにくれた災難に備えるためのプレゼントだと思います。
『黄帝内経』には面白い記載が多いので、今後時間を作って翻訳しようと思います。
(おわり)
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