こんにちは、李哲です。
アメリカの中医師、鄭智城先生1の症例、大柴胡汤:医生最怕治咳嗽_郑智城(2013-12-23発表)を翻訳しました。
なかなか治らない咳は、宿便と瘀血が原因かも知れません。
正しい処方箋を使えば、一晩で効果が現れます。間違った処方箋だと、当たり前ですが数日飲んでも効果が出ない。漢方薬の奥深さ、少しでも興味を持って頂けると幸いです。
咳の原因は五臓六腑にもなる
中医学にはある説があります。
「先生は咳の患者さんを怖がる」
なぜなら、咳の原因は様々で、五臓六腑すべてが咳の原因になるからです。
たくさんの咳する患者さんが来た時、私も治療で迷います。
私が咳を治す処方はいろいろです。良く使うのは小青竜湯、麻杏甘石湯、小柴胡湯、大柴胡湯。ほかには清金益気湯、止咳散など。有効なときもあるし無効な時もありました。
補う漢方薬で治らない咳
最近治療した中年女性の咳。
最初は補中益気湯を処方して、彼女の喉がつまる感じと咳は減りました。
しかし、新たな問題が出ました。
全身の筋肉が無意識に動くのです。
私の判断は下焦が弱くて、漢方薬の力で更に弱くなっている。人参を追加したら、けいれん・震えるのは治りました。
この処方で咳は減ってきたけど、まだ残っています。このまま良くなると思いきや、徐々に悪化して一日中咳が止まらなくなりました。特に夜は咳がひどい。体も弱くなり、目がとても痛くて、白い痰が絡んで出にくいそうです。
今回は「黄耆甘草湯」を2日処方しました。1日目の漢方薬を飲んでから、目の激痛はなくなり体力回復したけど、咳は続いている。痰が出やすくなり、色は黄色。
本を調べたら「止咳散」だと判断し、2日分を処方したけど無効。相変わらず止まらない咳でした。
大柴胡湯+桂枝茯苓丸に変えたら、一気に良くなった
あれこれ使ったのに治らない!
私はもう一度考え直しました。
気を補うのもダメ、肺を広げるのもダメ、もしかして攻撃したほうが良いのか?
彼女の便通を聞いてみたら、「最近は便が出にくい。でもお腹が張る感じはないです」の返答。脈診では右が弦脈盛、左関脈は弦脈数。ベロは赤くて、舌下の静脈怒張がある。典型的ではないけど、打つ手がないので宿便を出す「大柴胡湯」と瘀血を治す「桂枝茯苓丸」を1日分出しました。
今回は一気に良くなりました。
彼女が言うのは、夜中の12時に激しい咳をして痰が出たあと、ずっと静かに寝られて、翌日には2回の便通があったそうです。
李哲の感想
漢方薬は鍼灸と違って、間違った生薬を使うとちっとも効きません。だから、処方の難しさがあるのです。
上記の補中益気湯、黄耆甘草湯は気を補う処方。脈が弦脈で数、なぜ補中益気湯を使うか、私には理解できません。おそらく、鄭先生もなにかの根拠があったでしょう。私にとっては、後から推測するしかないですね。とにかく、最後は治って良かったです。
中医学の昔話には、確かに咳を治すのを嫌がる中医師が多かったです。咳は再発しやすくて、なかなか治らないから。
臨床で一つ気をつける点は、咳が長い間治らない時、初期の肺がんの可能性がある。ただし、これは西洋医学の検査には出ない、中医学の理論でしか判断できません。以下は一つの例、どうぞご参考にしてください。
上記の「五臓六腑が咳の原因になる」を解釈します。
もともと、最初は肺の問題で咳の症状が出ます。しかし、治療が間に合わなかった、もしくは無効な治療で、咳する時間が長くなったりすると、ほかの臓器にも影響が出るので、この時は肺だけ治す方法では根治ができない。咳は必ず再発します。
『黄帝内経』に書いた内容を例にすると、
①咳した時に尿が漏れる症状は、すでに膀胱にまで悪影響が及んでいる。だから、肺を治す以外に、膀胱も治さないといけません。
②咳した時に便が漏れる症状は、すでに大腸まで悪影響が及んでいるので、肺と大腸両方治さないといけない。
上記の2つは、あくまでもひどいバージョン。
軽く影響した時は、精密な分析が必要です。
問題は、影響を受けた臓器がどれなのかを、見極めるのが難しい。
根本が見えてくれば、漢方薬の治療方法は簡単で、異病同治などの理論もあるわけです。以下は、全然違う病名なのに同じ漢方薬を出した例。参考になると幸いです。
鍼治療の場合は、漢方薬ほど難しくないです。
寒熱を分析すれば、あとは関連のツボを刺せば、すぐ効果が現れます。中には寒熱を問わず有効なツボもあります。たとえば天突穴、膻中穴、内関、公孫、肺兪など。以下は一つの鍼治療例、参考にして下さい。
鍼は即効性があるけど、誰でも1回で治るとは限らないですね。
私も以前は咳を治すとき頭を抱えたけど、今は昔ほど悩まないです。臨床経験が増えたのが大きなキッカケかも知れません。ただし、鍼灸の勉強では油断大敵なので、引き続き頑張ります。
(おわり)
鄭智城先生はアメリカで開業している漢方医。様々な面白い症例があったので、翻訳させていただきました。人物紹介と診療所情報は、オススメの漢方医・鍼灸医(海外)をご覧ください。
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