
こんにちは、李哲です。
アメリカの著名な中医師、ニハイシャ先生1の弟子が書いた症例を翻訳し、授乳期の乳腺炎による「乳房が痛い」「腫れる」「母乳が出にくい」症状を漢方薬と鍼灸で4日間で改善した事例を紹介します。
使用した漢方薬は麻黄湯(、小柴胡湯、柴胡桂枝乾姜(、小陥胸湯()です。さらに、乳腺炎の痛みに効果的な梁丘穴のマッサージ方法も詳しく解説。乳腺炎やちぶさの痛みで悩む方の参考になれば幸いです。
関連リンク: 症例の中国語原文
症例:左乳房の痛みと母乳の出にくさ
患者情報 女性、33歳、台湾・高雄在住。産後1ヶ月半で授乳中。突然、左乳房が腫れて痛い、母乳が出にくいと訴えました。
発症のきっかけ 2010年9月27日、夜7時に母乳をあげた後、夫婦喧嘩が起きました。その直後、悪寒が始まり、左乳房が腫れて痛み、母乳を絞ってもほとんど出なくなったと患者は報告。
夫婦喧嘩によるストレスが、授乳期の女性の心臓と肝臓にダメージを与え、母乳分泌を妨げたと推測されます。
電話で確認したところ、患者は「汗が出ていない」「皮膚が少し敏感」とのこと。風邪の影響で乳腺炎が悪化したと考え、麻黄湯()を処方しました。麻黄湯は風邪の初期症状(悪寒、発熱、関節痛)に効果的で、乳腺炎の背景にある体調不良の改善を目指しました。

治療1日目:悪寒の改善と次の処方
2010年9月28日、朝5時49分に患者から連絡。「昨夜、麻黄湯を飲んで寝たら大量の汗をかき、悪寒がなくなったが、左乳房はまだ腫れて痛い。キッチンで動くと軽い悪寒が再発した」とのこと。出掛ける直前だったため、後で連絡すると伝えました。
朝6時半、再度確認すると「悪寒はなくなったが、汗が出る」「喉と舌が乾く」と報告。寒気から発熱に移行し、左乳房の痛みが続くことから、少陽病の可能性を考え、小柴胡湯()に麦門冬、芍薬、枳穀を加えた処方を指示しました。

昼に確認すると、煎じ薬の効果が不十分。患者の夫(鍼灸経験者)に肩井と足三里を刺してもらいましたが、改善せず。夕方5時、患者から連絡があり、体温が39.2℃に上昇。以下の症状が現れました:
– 立っていると汗が出ないが、寝ると汗が出る
– めまい、口の苦み、喉の渇き(熱いものを欲する)
– 全身の脱力感、話すのがつらい、息切れ、頭重感、腹部膨満
– みぞおちの圧痛、便秘(普段は毎日便通あり)、尿が黄色で少ない
みぞおちを押すと軽い痛みがあり、舌は薄い白苔で乾燥。脈診ができない電話診療のため、少陽・太陽・陽明の合併症と判断し、柴胡桂枝乾姜湯()を処方:
– 柴胡4銭、桂枝3銭、乾姜2銭、天花粉4銭、黄芩3銭、牡蛎3銭、炙甘草2銭
患者は漢方薬を飲む前に救急病院を受診。「乳腺炎ではない、外科へ」と診断され、不信感から漢方薬を継続しました。

治療2日目:乳房の痛み軽減と精神状態の向上
2010年9月29日、患者の報告:
– 精神状態が改善、声に力が戻った
– 左乳房の痛みが軽減、めまいと口の苦みが大幅に改善
– 漢方薬服用3時間後、便通があり腹部膨満が解消。今朝も便通あり(軟便、無臭)
– 首の後ろと左腋下の縮こまるような痛みが残る
みぞおちの圧痛が軽減したため、処方を調整。柴胡を1銭減らし、葛根4銭を追加:
– 柴胡3銭、桂枝3銭、乾姜2銭、天花粉4銭、黄芩3銭、牡蛎3銭、炙甘草2銭、葛根4銭

治療3日目:体温正常化と乳房の痛み消失
2010年9月30日、患者の声に力が戻り、体温が正常化。
報告内容:
– 左乳房は腫れが残るが痛みは消失
– 母乳量:左30cc、右100cc(減少)
– 腋下の痛み消失、喉の渇きとおでこの重感が残る
– 右を下にすると大汗、仰向けや左を下にすると汗が出ない
– みぞおちの圧痛が続く

患者が自分でみぞおちを押すと軽い痛みが残る。右を下にすると大汗をかく現象から、陽明病の合併を疑い、以下の処方を指示: – 柴胡桂枝乾姜湯( + 小陥胸湯()
– 柴胡3銭、桂枝3銭、乾姜2銭、天花粉4銭、黄芩3銭、牡蛎3銭、炙甘草2銭、栝楼実4銭、黄連1銭、半夏3銭
3時間後、患者から連絡:「体と心が軽くなり、みぞおちの痛みが明らかに減った。左手を上げても痛みがない」。翌日も半量で継続するよう指示。
関連記事: 小柴胡湯+小陥胸湯でガス中毒を治療
治療4日目:完全治癒
2010年10月1日、患者から「すべての症状が消えた」と連絡。乳房の痛み、腫れ、母乳の出にくさ、発熱、めまい、口の苦み、みぞおちの圧痛が解消し、治療を終了しました。
李哲の説明
症例の全体的解説
この症例では、風邪と夫婦喧嘩によるストレスが乳腺炎を引き起こしました。中医学では、感情的ストレスは肝臓の気を停滞させ、母乳分泌を妨げると考えます。また、風邪による体表の気の乱れが乳腺の詰まりを悪化させます。
麻黄湯で風邪の初期症状を解消し、小柴胡湯と柴胡桂枝乾姜湯で少陽病を治療。さらに、みぞおちの圧痛や陽明病の症状に小陥胸湯を加えることで、全身のバランスを整えました。
4日間で急性症状を完治させたこの治療は、中医学の診断と処方の精度の高さを示しています。

乳腺炎の改善に効果的な「梁丘穴」
乳腺炎の乳房の痛みや腫れには、梁丘穴(胃経)が効果的です。
– 場所:膝皿の上縁から外側に指3本分(約2寸)、筋肉の凹んだところ。強く押すと響きます。

– 効果:私の妻が授乳期の乳房の痛みで梁丘穴を5分マッサージしたところ、1回で痛みが軽減。完治には至らないものの、即効性があります。
– 方法:鍼が怖い方は、指で強く5~10分マッサージ。痛みが和らぐまで繰り返します。
アドバイス:梁丘穴は授乳期の女性に覚えてほしいツボ。急な乳房の痛みや腫れに役立ちます。鍼灸が苦手な方はマッサージだけでも効果的です。
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乳腺炎予防のための生活習慣
乳腺炎を防ぐには、以下の点に注意しましょう:
– ストレス管理:夫婦喧嘩や感情的ストレスは肝臓に負担をかけ、母乳分泌を悪化させます。深呼吸や軽い運動でリラックスを。
– 風邪予防:体を冷やさない、十分な睡眠と栄養を確保。
– 乳房のケア:授乳後の乳房マッサージや清潔を保つことで詰まりを予防。
– 定期的な梁丘穴マッサージ:症状がないときも予防的にマッサージすると効果的。

まとめ:乳腺炎の自然な治療法
乳腺炎は授乳期に多く、風邪やストレスが引き金になることがあります。この症例で使用した漢方薬は以下の通り:
– 麻黄湯:風邪の悪寒・発熱を改善
– 小柴胡湯:少陽病(口の苦み、めまい)を治療
– 柴胡桂枝乾姜湯:発熱と乳腺の詰まりを緩和
– 小陥胸湯:みぞおちの圧痛や陽明病に対応
これらを症状に応じて組み合わせ、4日で完治。ストレス管理と体調維持が乳腺炎予防の鍵です。
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