はじめに:中医学の力で緊急治療を実現
こんにちは、李哲です。
スタンフォード大学博士で中医師の李宗恩先生1の症例「一個遠程急診病例」(2021年10月4日発表)を翻訳・解説します。
この症例では、漢方薬「猪苓湯」を活用し、尿が出ない、脇腹の痛み、発熱、嘔吐などの複雑な症状をわずか2日で改善した事例を紹介します。西洋医学では解決しきれなかった問題に対し、中医学がどのように効果を発揮したのか、その理由を詳しく解説します。中医学の診断アプローチは、症状の根本原因を見極め、身体全体のバランスを整える点で優れています。
患者の背景:15年間の闘病と悪化の歴史
患者は中国河南省在住の65歳女性で、当院の常連患者の母親です。農村部に住む彼女は、長年家族を支える主婦として忙しく過ごしてきましたが、健康問題が積み重なり、生活の質が大きく低下していました。以下は彼女の主な病歴です:
- 15年前:子宮頸がんのため子宮摘出手術。その後、抗がん剤と放射線治療を受け、がんは抑制されたものの、副作用が深刻でした。
- 放射線治療の副作用:膀胱出血、尿管硬化、腎臓に水が溜まる(水腎症)。これにより、排尿機能が大きく損なわれました。
- 5年前:腎臓の水を排出するための管を挿入。1年ごとに交換が必要で、身体的・精神的負担が増加。
- 2025年上半期:胆石、虫垂炎、敗血症が判明し、複数回の入院治療を余儀なくされました。
これらの治療は一時的な症状の緩和には役立ったものの、根本的な解決には至らず、むしろ新たな健康問題を引き起こしていました。患者は慢性的な疲労感と痛みに悩まされ、家族との時間も楽しめない状況でした。
緊急入院のきっかけ:重度の症状
約1か月前、患者は以下の重篤な症状で緊急入院しました:
- ひどい腹痛、嘔吐、吐き気。
- 脇腹の張りと激しい痛み。
- 発熱と一時的な意識不明。

脇腹の激しい痛みと排尿障害に悩む女性。漢方薬「猪苓湯」で2日間服用し、発熱や食欲不振も改善した症例。
検査で重度の尿路感染症と排尿障害が判明し、10日間の入院治療で症状は一旦落ち着きました。しかし、退院後1週間で再び症状が悪化。以下のような症状が続きました:
- 右腰の痛みと持続する発熱(38~39℃)。
- 胃の腫れと圧迫感、食後の不快感。
- 脇腹の下の広範囲な腫れと激痛。
- 全身の倦怠感、排尿障害による尿量の極端な減少(1日100ml以下)、食欲不振、睡眠障害。
病院で処方された消炎鎮痛剤や胃薬はほとんど効果がなく、患者は毎日ベッドでうめき声を上げ、家族も途方に暮れていました。この状況は、患者の体力と精神を極端に消耗させ、緊急の対応が必要でした。
関連記事:胃痛と倦怠感を漢方薬で改善した症例
中医学によるオンライン診断と治療
緊急のオンライン診療
患者の娘から緊急治療の依頼が入り、診療所の予約は3~4週間待ちでしたが、たまたまキャンセル枠を利用してオンライン診療を実施。ビデオチャットでは、患者は激しい痛みで話せず、イライラした様子でした。娘からの情報も曖昧で、尿排出管や脇腹の痛みの原因がすぐには分かりませんでした。このような状況でも、中医学では患者の表情、声のトーン、家族の説明から診断の手がかりを得ます。
関連症例:中医学の緊急救命力|病院が見放した患者を漢方薬で救う症例
中医学の診断:2つの核心的問題
同じ質問を繰り返し、患者の状態を詳細に分析した結果、以下の2つの問題を特定:
- 腎臓・膀胱の機能低下による排尿障害:尿量減少、水腎症、尿路感染症の原因。腎臓は中医学で「水の代謝」を司る重要な臓器です。
- 肝臓・胆嚢・脾臓・膵臓の問題:脇腹の痛み、胆石、胆嚢炎に関連。肝臓は「気と血の流れ」を調整し、胆嚢と連携して消化を助けます。
治療のポイント:緊急治療では、すべての症状を一度に治そうとせず、最も重要な問題(腎臓・膀胱)に焦点を当てることが鍵です。中医学では、身体のバランスを整えることで、関連する症状も自然に改善します。
処方:猪苓湯のアレンジ
以下をベースにした漢方薬を処方:
- 猪苓、茯苓、澤瀉、滑石:水の代謝を促進し、腎臓・膀胱の機能を回復。
- 桂枝、白朮:気と血の流れを整え、全身のバランスを調整。
- 生半夏、生姜:消化機能を助け、吐き気を抑制。
- 阿膠:血液を補い、炎症を鎮める。
猪苓湯は、腎臓と膀胱の「湿熱」を取り除く処方で、尿路感染症や水腎症に特に有効です。この処方は、患者の症状に合わせて成分を微調整し、即効性を高めました。
驚異の効果:2日で症状が劇的改善
漢方薬を2日間服用後、患者の状態は劇的に改善しました。ビデオチャットで確認した結果:
- 発熱が消失(体温36.5℃に安定)、精神状態が安定し、笑顔が戻る。
- 排尿障害が改善し尿量が大幅に増加(1日1L以上)、尿の色も正常に。
- 脇腹の痛みが初日は軽減、2日目には完全消失。
- 食欲不振が改善し、軽い食事を摂れるように。夜もぐっすり眠れるようになった。
患者は「まるで別人になったよう」と喜び、家族も驚くほどの回復でした。この劇的な変化は、中医学が身体の根本的なバランスを整えた結果です。
なぜ猪苓湯で諸症状が改善したのか?
中医学の視点:水の代謝と臓器の連動
患者の脇腹の痛みは、腎臓・膀胱の問題が肝臓に影響した結果でした。以下はそのメカニズム:
- 膀胱の水代謝異常:腎臓・膀胱の問題で水が停滞し、肝臓に十分供給されない。
- 肝臓の機能低下:水不足により胆汁分泌が滞り、胆石や胆嚢炎が悪化。脇腹の痛みを引き起こす。
- 猪苓湯の作用:腎臓・膀胱の水代謝を正常化し、肝臓に水を供給。結果、肝臓・胆嚢・脾臓の問題も改善。
中医学の「水生木」(水が木を育てる)という理論に基づきますが、具体的には、膀胱の水が小腸の熱で蒸発し、肝臓に運ばれるプロセスを回復させたのです。このプロセスが正常化すると、関連する臓器の機能も連鎖的に改善します。
関連記事:1cmの腎臓結石を猪苓湯で改善した症例
西洋医学との違い
西洋医学では、尿路感染症に抗菌薬、痛みに鎮痛剤を処方しますが、根本原因(水代謝の異常や臓器の連動)にアプローチしません。中医学は、症状の背景にある身体のバランスを整えるため、再発リスクを低減し、全身の健康を向上させます。この症例では、猪苓湯が単なる対症療法ではなく、身体の調和を取り戻したのです。
関連記事:中医学とは?西洋医学と比べて中医学のメリット、デメリットを説明。
今後の治療:胆石と胆嚢炎の根本治療
緊急治療で症状は改善しましたが、胆石や胆嚢炎などの根本的な問題は未解決です。今後の治療方針:
- 腎臓の強化:水代謝を安定させ、尿路感染症や水腎症の再発を防ぐ。
- 肝臓・胆嚢の治療:胆石と胆嚢炎を漢方薬や鍼で改善し、消化機能を回復。
- 生活習慣の改善:食事のバランス(脂っこいものを避ける)、適度な運動、ストレス管理を指導。
中医学では、胆石や胆嚢炎は適切な治療で改善可能な病気です。以下の症例を参考にしてください:
類似症状でお悩みの方へ:中医学の可能性
尿が出ない、脇腹の痛み、発熱、吐き気などの症状は、腎臓や肝臓の問題が背景にある場合があります。これらの症状でお悩みの方は、以下のステップを試してみてください:
- 専門家に相談:中医学の専門家による診断を受け、身体のバランスを評価。
- 漢方薬を検討:猪苓湯などの処方で、根本原因にアプローチ。
- 生活習慣を見直す:水分摂取を増やし、ストレスを軽減。
中医学は、個々の体質や症状に合わせたオーダーメイドの治療を提供します。西洋医学で改善しない場合、ぜひ中医学の力を試してみてください。
関連症例:術後の尿が出ない・排尿痛は漢方薬1日で良くなった症例
まとめ:中医学で健康を取り戻す
この症例は、漢方薬「猪苓湯」が尿が出ない、脇腹の痛み、発熱などの複雑な症状をわずか2日で改善した事例です。中医学は、身体全体のバランスを整えることで、西洋医学では解決困難な問題にも効果を発揮します。健康でお悩みの方は、中医学の専門家に相談し、新たな治療の可能性を探ってみてください。
李宗恩博士はアメリカ・カリフォルニアの著名な中医師。数々の難病・がん治療で高い臨床効果を出して、中医学の普及のために記事を書か続けて、研修医たちも育てている素晴らしい先生です。李宗恩博士の診療所情報は、以下の記事で説明しているので、どうぞご参考にして下さい。オススメの漢方医・鍼灸医(海外)
↩︎
コメント